ヤマネ(山鼠、冬眠鼠)は、ネズミ目(齧歯目)ヤマネ科に属する1属1種で、日本固有種。本州、四国、九州、隠岐の森林に、広く分布します。
樹上で暮らし、夜行性で通常は単独で生活します。行動圏は広く、浅間山麓の調査では、雄が2ha、雌が1ha弱の範囲で行動していました。 平たい体で木に張りつくようにして移動し、垂直な幹を頭を下にしてスルスルと降りることができます。水平な枝では、枝の下面を逆さまになって移動することが多いです。30cmほどの距離なら、幹から幹へ飛び移ることもできます。樹洞内や木の枝の間、山小屋の壁の間などに、樹皮やコケを集めて球形の巣を作ります。鳥のためにかけられた巣箱を利用することもあります。
ヤマネは日本の特産種で、国の天然記念物に指定されています。手のひらにのってしまうほど小さなこの動物は、夜行性で、樹上を主な生活の場としています。ふだんは単独で行動し、テリトリーや決まった巣を持たず、食物となる昆虫や漿果類を求めて、広い範囲を移動しています。また、ヤマネは冬眠動物として昔から有名ですが、この冬眠という現象については、まだまだ不明な点が多く、現在、研究が進められています。
東北産のヤマネでは、九月に入りますと、もう冬眠の準備段階が観察されるようになります。まだ気温も高く、餌も豊富ですが、数力月におよぶ冬眠への備えは、夏の終わりにはすでに始まっているのです。飼育下においたヤマネでは、冬眠前に餌を貯蔵する行動は見られません。野外で偶然見つかったヤマネでも、巣内に食物が蓄えられていたという話は聞きません。これらのことから、野生のヤマネも冬眠期間中は餌をとらず、からだに蓄えた脂肪のみで栄養を賄っているものと考えられます。
冬眠中のヤマネは、土の中、木の洞の中、積もった雪の中などで見つかっています。このうち、比較的発見例の多いのは木の洞なのですが、にもかかわらず、ヤマネが樹洞で冬眠することが多いとは考えにくいです。というのは、冬眠に適した場所の条件としては、樹洞は外気の影響をもろに受けやすいと思われるからです。土や雪の中ならば、冬眠の場所としての条件は数段よい。事実、ヤマネを土の床の上で飼育したところ、冬には土の中にもぐって冬眠したといいます。
ヤマネが冬眠に入るきっかけとしては外気温の低下が重要であり、気温が12℃以下くらいになると冬眠が誘発されるといわれてきました。ところが最近では、気温以外に、餌の有無やヤマネの栄養状態なども冬眠開始に深く関係していることがわかってきました。飼育下のヤマネに、冬になっても餌を与え続けていますと、からは丸々と太って冬眠準備は万全と思われるのになかなか冬眠に入りません。そこで、餌を取り上げてしまうとみるみる体重が減り、間もなく冬眠が開始されますが、餌を与え続けますと、冬眠せずに冬を超してしまうものも出てきます。さらに夏でさえ、餌を制限するだけで、低体温を誘発できます。気温によりますが、少なくとも8℃程度までは下げられることも分かりました。これが、冬季に見られる冬眠と同じ機構で起こるのかどうか現在研究中です。低体温現象の主たる目的が、エネルギー消費量を節約することにあるとすれば、温度にも摂食の増減にも柔軟に対応できるヤマネの体温調節機構は、実に見事なものと言えるでしょう。
ちなみにヤマネは、昆虫や種子、果実、花(花粉や蜜を含む)を食べます。ネズミのような盲腸をもたないため、木の葉のような繊維質のものを消化することができず、また、クルミなどをかじるのに適した歯や筋肉ももっていません。
春に冬眠から目覚めて1週間から2週間ごろに交尾しますが、ムササビなどと同様の交尾栓をもちます。その後30−39日で出産し、一度に出産する子の数は、通常3−5頭になります。繁殖期は地域により差がありますが、通常年2回出産します。寿命は、約5年。体長の大きさの割には非常に長寿です。敵に襲われますと、尾(骨以外)を残して逃げることがあります。ただし抜けた尾の毛は再生しません。
冬が近づきますと、ヤマネは体内に脂肪を蓄え、体重が、2倍程度に増加します。これによって冬眠中の栄養をまかなっています。冬眠中は体をボールのように丸めていますが、数匹がかたまりになって冬眠することが時々あります。中部地方では、6か月前後に及びます。冬に木を切りますと、冬眠中のヤマネが転がり出てくることがあることから、林業に携わる人々は、ヤマネを山の守り神として大切にしてきました。